なぜ今、工数・原価・粗利管理が注目されているのか
イベント制作業界は、一つひとつの案件がオーダーメイドで進行し、外注費・人件費・機材費など多様なコスト要素が絡む複雑な構造を持っています。プロジェクトの成功は、クライアント満足だけでなく、「利益をきちんと出せたか」によって評価されるべきですが、実際は“感覚”や“現場の勘”に依存した運営が少なくありません。
とくに、プロジェクトマネージャー(PM)やディレクターの立場では、スケジュール・品質・チーム管理に加えて、コストと収益の責任を問われる場面が増えています。「この案件、本当に黒字だったのか?」「どこで工数がかかりすぎたのか?」といった疑問に答えられなければ、次の見積りの精度も、経営判断もぶれてしまいます。
そこで本記事では、イベント制作会社における工数・原価・粗利管理の重要性と、よくある課題、そしてそれをどう乗り越えるべきかについて詳しく解説していきます。
プロジェクトの収益性は「見える化」から始まる
イベント制作における“成功”とは何でしょうか。納品物のクオリティ?クライアントからの評価?それとも大規模な集客?いずれも重要ですが、それらは「収益が確保できてこそ」成立するものです。
利益を確保するには、以下の3つの要素を明確に管理しなければなりません。
- 工数:各担当者がどの業務にどれだけの時間をかけたか
- 原価:人件費や外注費、備品費など直接的なコスト
- 粗利:売上から原価を引いた、実質的な利益部分
この3点が案件ごとに把握できていなければ、次のような問題が起こりがちです。
- 赤字案件を後から発見しても手遅れ
- 原価率が高い業務が判別できず、改善につなげられない
- メンバーの過剰工数に気づかず、燃え尽きや退職を招く
つまり、プロジェクトの“収支の見える化”は、PM・ディレクターにとっての「武器」であり、クライアントとの交渉、社内での意思決定、チームビルディングすべてにおいて効果を発揮する重要スキルなのです。
工数・原価・粗利管理のどこに問題があるのか
イベント制作会社が工数・原価・粗利管理において抱える課題は、大きく以下の4つに分類できます。
1. 属人化・非体系化したコスト管理
多くの現場では、見積や請求、外注費の管理がエクセルベースで属人化しています。誰がどの費用を計上したのか、どの案件でどれだけ外注費がかかったのか、あとから追いかけるのが困難で、担当者が異動や退職すれば“どこに何があるかわからない”状態になりがちです。
2. 工数の計測・記録が曖昧
制作ディレクターが「大体1週間くらいで終わるだろう」と見積ったタスクが、実際には2週間かかったというケースはよくあります。しかし、その“超過”が記録に残されていないと、次の案件でも同じ見積ミスを繰り返します。現場メンバーが工数を正確に記録できる体制が整っていない会社も多く、数値が感覚ベースで回っているのが現状です。
3. 売上とコストの紐づけが弱い
案件ごとの請求金額は把握できても、「この売上に対する原価はいくらか?」が即座に分からないことが多いです。例えば、同じ200万円の売上案件でも、外注比率が高く粗利が低い案件と、内製比率が高く高利益率な案件では意味がまったく異なります。これを把握せずに“数字だけで判断”すると、経営の意思決定を誤ります。
4. 「現場」と「経営」の意識ギャップ
ディレクターは日々のスケジュール進行に集中しがちで、経営層が求める「原価率」「粗利率」といった指標への関心が薄いケースも少なくありません。一方で、経営側は「もっと利益率を上げろ」と指示するだけで、現場がどこで工数がかかっているかを把握していないという、すれ違いも起こります。
このような課題を放置していると、慢性的な赤字案件や、属人化によるリスク増大に直結し、いざというときに“立て直しが効かない”状態に陥ってしまいます。
工数・原価・粗利をどう可視化し、改善するか
前章で挙げたような課題を放置すると、プロジェクト単位での黒字・赤字の判断が曖昧になり、会社全体の収益性も見えなくなります。では、イベント制作会社において、PM/ディレクターが実務として取り組むべき“管理の仕組み化”はどのように実現できるのでしょうか。
ここでは、「見える化」「一元管理」「リアルタイム連携」「分析とフィードバック」の4ステップで解説します。
ステップ1:工数を見える化する仕組みの導入
最も重要なのが、メンバーの作業時間(=工数)をプロジェクト・タスク単位で正確に記録することです。たとえば、イベントの「会場設営」や「進行台本作成」など、粒度を揃えて分類し、工数登録できる仕組みを用意することで、どのタスクにどれだけ時間がかかっているのかが可視化されます。
ポイント:
- 工数入力を習慣化しやすいUI・UXを持ったツールの選定
- 毎週・毎月の集計とフィードバック体制の構築
- 同一タスクでも案件別に差が出る原因を分析
ステップ2:原価情報の一元管理
工数と並んで重要なのが原価の正確な記録と紐づけです。たとえば、外注スタッフへの報酬、会場費、機材費など、案件単位で細かく登録し、見積との差分を明確にします。エクセルで管理すると、記録ミスや集計漏れが発生しやすいため、専用の管理システムを導入するのが現実的です。
ポイント:
- 見積・発注・請求・支払を一元管理
- 案件別に実コストと見積コストを比較
- 外注先ごとのコスト推移を見える化
ステップ3:粗利管理を自動化する
粗利=売上−原価が案件ごとに明確に見える状態を作ることで、ディレクターは収支を踏まえた判断が可能になります。たとえば、ある案件で「見積は黒字だったが、実際には赤字だった」場合、原因が工数オーバーなのか、外注費の膨張なのか、または請求ミスなのかを即時に把握できます。
ポイント:
- 案件一覧で粗利・粗利率をグラフで可視化
- 原価超過アラートなどの自動通知
- 利益率の高い案件の特徴を抽出し再現性を高める
ステップ4:プロジェクトごとの“利益体質”を育てる
ここまでの管理ができて初めて、「この業務はもっと効率化できるのでは?」「この外注は内製化した方が利益が出る」といった改善の種が見えてきます。つまり、管理はゴールではなく、改善の起点です。
ディレクターが収支の構造を理解することで、「クオリティ重視の赤字案件」と「スピード重視の高利益案件」といったバランス感覚も養われ、チーム内での役割分担や教育方針にもつながっていきます。
システム導入で実現する工数・原価・粗利管理
では実際に、イベント制作会社がどのようにして工数・原価・粗利管理を高度化しているのか。ここでは、収支管理システムを導入して成果を上げた事例を紹介します。
背景と課題
- 複数案件が並行するなか、どの案件が黒字か分からない
- 外注費がかさむ一方、社内では見積との差異に気づけなかった
- PMが各自でエクセル管理していたため、集計に1週間以上かかることも
システム導入後の変化
- 工数登録が日次で習慣化。タスク単位の見積精度が向上
- 外注費や備品費が自動で案件に紐づくため、リアルタイムで粗利確認可能
- 管理部門とディレクターが共通の「損益認識」を持つようになり、経営判断が迅速化
成果
- 粗利率25%→32%へ改善(1年で)
- 見積作成の標準化により、営業との連携強化
- 赤字案件の早期発見・対処が可能に
このように、収支管理システムのようなプロジェクト型ERPを活用することで、感覚頼りだった収支管理が「数値ベースの判断」に変わり、ディレクターの経営貢献が見える形で強化されていきます。
プロジェクトの利益を最大化する仕組みを整えませんか?
イベント制作の現場では、納期と品質が最優先になりがちですが、その先にある“収支の健全化”を意識しなければ、いずれ疲弊し、チームの持続性すら損なわれます。
「プロカン」は、PM/ディレクターが案件単位で工数・原価・粗利を正確に管理し、チーム・経営・外部との連携を強化できるERPです。感覚頼りの進行管理から脱却し、プロジェクト利益を最大化するための第一歩として、ぜひ資料をご覧ください。